日本動物高度医療センターはスケールできるのか?獣医師数と診療体制を読む③

株式投資

前回の記事では、日本動物高度医療センターの売上・利益の伸びと、症例を集める力を見てきました。

連携病院数は増えており、初診数も伸びている。

つまり、紹介型の二次診療モデルにおいて、症例の入口は順調に見えます。

ただし、症例が集まるだけでは成長は続きません。

高度医療には、それを受け入れる獣医師、設備、診療体制が必要です。

今回は、まず前回触れられなかった利益率改善の中身を整理したうえで、日本動物高度医療センターが今後スケールできるのかを、獣医師数と診療体制から見ていきます。

利益率向上の要因

利益の伸びが売上の伸びを大きく上回っている理由として、まず大きいのは診療価格の引き上げです。

会社資料を見ると、日本動物高度医療センターは2025年6月から一部診療費の価格改定を実施しています。
2026年3月期の業績には、価格改定の効果がすでに反映されていると考えられます。

ここで確認したいのは、価格改定後に診療数が落ちていないかです。

単価を上げても、受診控えが起きて診療数が減ってしまえば、売上や利益への効果は限定的になります。
一方で、単価を上げても診療数が堅調に推移しているなら、日本動物高度医療センターの専門性や紹介ネットワークが、価格改定を受け入れられる土台になっている可能性があります。

会社は、価格改定後も診療数への影響は見られず、受診控えの影響も見られなかったと説明しています。
そのため、2026年3月期の利益率改善には、価格改定が大きく寄与していると考えられます。

会社は、利益率上昇について「業務効率化と診療品質向上の相乗効果」とも説明しています。

また、営業利益の増減要因を見ると、増収効果が人件費・設備IT関連費・減価償却費などの費用増を吸収しています。

増収効果が人件費・設備IT関連費などの費用増を吸収。利益率改善は、価格改定だけでなく、診療数の堅調推移や業務効率化も合わせて見る必要がある。

つまり、2026年3月期の利益率改善は、価格改定による増収効果に加えて、診療数の堅調推移、診療受け入れ能力の拡大、業務効率化や診療品質向上が組み合わさった結果として見るのが自然です。

特に、業務効率化と診療品質向上という説明は気になります。

もしこの利益率改善の一部が、診療プロセスの改善や現場ノウハウの蓄積によるものなら、今後のDX・データ活用ともつながってくるかもしれません。

会社は成長戦略の中でDX・データ活用も掲げています。

高度医療では、画像診断、症例データ、診療プロセスの標準化が重要になります。
ここにAIやデータ活用が絡んでくれば、診療の質を維持しながら、さらに受け入れ能力や業務効率を高められる可能性もあります。

ただ、現時点でAIやDXがどれだけ利益率に貢献しているかは分からないので、ここは期待だけで語りすぎず、4本目の記事で成長戦略の一つとして改めて考えたいと思います。

ここまでが、2026年3月期の利益率改善についての整理です。
価格改定はかなり効いてそうですね。

では、中長期でこの会社がさらに成長していくために、何が一番重要になるのか。

私は、獣医師数診療体制だと思います。

ここからが本題。スケールのカギは獣医師数

日本動物高度医療センターを中長期で見るうえで、私が最も重要だと思うKPIの一つは獣医師数です。

というのも、高度医療をスケールするためには設備の増強だけでは成立しえないビジネスだからです。

CTやMRI、手術室、入院設備があっても、それを使いこなし、難しい症例を診断し、治療につなげられる獣医師がいなければ、診療キャパは広がりません。

前回の記事で見たように、連携病院数は増えています。
初診数も伸びています。
症例を集める力は順調です。

しかし、その症例を受け止める獣医師が足りなければ、スケールには限界があります。

普通の店舗ビジネスであれば、出店すれば一定の売上が立つケースもあります。
足りない人員はバイトを雇えば済むことも多いでしょう。

しかし、二次診療の高度医療病院はそうではありません。

病院を作って設備を導入したのちに、高度医療に対応できる獣医師を採用し、育成し、診療体制として機能させる必要があります。

つまり、この会社のスケールは、単なる病院数の拡大ではなく、専門人材の拡大とセットで見る必要があります

獣医師数は増えている。ただし育成コストもかかる

結論から言うと、獣医師数は増加基調にあります。

2026年3月期の二次診療獣医師数は100名です。

前期末から9名増えています。

過去推移を見ると、2022年3月期は68名、2023年3月期は69名、2024年3月期は82名、2025年3月期は91名、2026年3月期は100名です。

この推移を見ると、獣医師数は着実に増えています。

2024年3月期に82名、2025年3月期に91名、2026年3月期に100名。

2年間で18名増えています。

この数字は、受け入れキャパを広げるうえで順調に推移しているように見えます。

連携病院数が増え、初診数も伸びている中で、二次診療を担う獣医師数も増えている。

ここまで見ると、症例を集める力だけでなく、受け入れる側の人材基盤も少しずつ積み上がり何の障壁もないように見えますが、獣医師数が増えることには当然コストも伴います。

高度医療に対応できる獣医師は、採用してすぐにフル稼働できるとは限りません。

難しい症例を診断する力、画像診断を読み解く力、治療方針を組み立てる力、紹介元の動物病院と連携する力。

こうした能力は、現場での経験や教育を通じて積み上がっていくものです。

つまり、獣医師数を増やす局面では、人件費が先に増え、教育コストもかかります。
採用した獣医師が即戦力化するまでには時間差があります。

この時間差は、短期的には固定費の重さとして出てくる可能性があります。
また、専門人材の人件費なので、他のビジネスの新卒を雇うコストとは比べ物にならないほど大きいでしょう。

この辺りも念頭に置いておく必要があります。

一方で、育成がうまく進み、診療品質を落とさずに受け入れ能力を広げられれば、将来の売上成長と利益率改善につながります。

  • 増やした人材を、どれだけ早く戦力化できるか。
  • 診療品質を維持したまま、受け入れキャパを広げられるか。
  • 人件費増を、将来の診療数増加や利益成長で吸収できるか。

ここまでセットで見る必要があります。

獣医師数を増やし、育成し、診療体制として機能させる。

ここが日本動物高度医療センターのスケールを考えるうえで中心になると思います。

あわせて見たいのが、設備投資と診療プロセス改善です。

高度医療では、CTやMRIなどの医療設備が診療キャパに関わります。

日本動物高度医療センターは、川崎本院でCT増設やMRI更新を進めています。

MRI更新では工期延伸により第4四半期の売上に影響が出たと説明されており、設備の稼働状況が診療キャパに影響することが分かります。

この会社を見るうえでは、獣医師数、設備投資、診療プロセス改善をセットで確認したいです。

獣医師が増え、必要な設備が整い、診療プロセスが改善されれば、受け入れ能力は広がります。

会社は、診療プロセス再構築や新電子カルテ導入にも取り組んでいます。

診療の流れが改善されれば、同じ獣医師数でも受け入れられる症例数が増える可能性があります。

たとえば、以下のような改善が積み上がれば、診療品質を維持しながら受け入れ能力を高められるかもしれません。

  • 情報共有が効率化される
  • 検査や診断の流れがスムーズになる
  • 紹介元との連携がしやすくなる

ここは、前半で触れた「業務効率化と診療品質向上の相乗効果」ともつながる部分です。

現時点で、診療プロセス改善がどれだけ数値に効いているかまでは分かりません。

ただ、会社がDX・データ活用を成長戦略として掲げている以上、今後の受け入れ能力や利益率を見るうえで、無視できない論点だと言えるでしょう。

地理的拡大も、獣医師数とセットで見る

日本動物高度医療センターには、まだ地理的に広げられる余地があります。

現在の病院は、川崎本院、東京病院、名古屋病院、大阪病院など、都市部を中心に展開しています。

一方で、会社は成長機会として「空白エリアの存在」を挙げています。

決算説明資料では、名古屋や福岡といった地域について、サービス提供体制が手薄、あるいは大手の二次診療が存在しない空白エリアがあると説明されています。

ここで注意したいのは、連携病院数の見方です。

2026年3月末時点で、JARMeCの連携病院数は4,779施設、連携病院比率は36.6%です。

全国の小動物診療施設の3分の1以上と連携していることは、紹介型の二次診療モデルにとって大きな基盤に見えます。
ただし、連携病院が地域別にどのように分布しているかまでは、今回確認した決算説明資料では分かりません。

東京・名古屋・大阪など既存病院の周辺に連携病院が多く集まっている可能性もあります。

そのため、「病院がない地域でも、すでに一定の連携ネットワークがある」とまでは断定しない方がよさそうです。

地理的拡大を見るうえで確認したいのは、単に未展開エリアがあるかどうかではありません。

  • 新しい地域で、一次診療施設との連携をどれだけ築けるか。
  • 高度医療を担える獣医師を確保できるか。
  • 必要な設備投資を行い、診療体制として機能させられるか。

ここまでそろって初めて、新しい地域で二次診療病院として成立するはずです。

つまり、地理的拡大も、結局は獣医師数と診療体制の問題に戻ってきます。

空白エリアがあることは成長余地です。

ただし、その成長余地を実際の売上と利益に変えられるかは、地域連携、専門人材、設備、診療体制をセットで確認する必要があります。

成長余地はある。ボトルネックは人材

ここまで整理すると、日本動物高度医療センターの成長余地はかなり見えてきます。

  • 連携病院数は増えている。
  • 初診数も伸びている。
  • 価格改定後も診療数への悪影響は見られていない。
  • 獣医師数も増加基調にある。
  • 設備投資や診療プロセス改善にも取り組んでいる。

この流れを見ると、二次診療モデルはかなりうまく機能しているように見えます。

今後の焦点は、需要をどれだけ受け入れられるかです。

そして、その中心にあるのは人材です。
高度医療を担える獣医師を採用し、育成し、診療体制として機能させる必要があります。

人材を増やす局面では、人件費や教育コストが先に増えます。
育成に時間がかかれば、短期的には固定費負担が重くなります。
この負担を、将来の診療数増加や利益成長で吸収できるか。

ここが、今後の決算で見たいポイントです。

人材投資が先行して利益率が落ちるなら、それが一時的な成長投資なのか、構造的な採算悪化なのかを見極める必要があります。

逆に、獣医師数を増やしながら診療品質を維持し、受け入れ能力を広げられるなら、この会社はまだスケールする余地があると思います。

地理的拡大も、診療体制強化も、DX・データ活用も、最終的にはこの「受け入れる力」をどれだけ高められるかに関わってきます。

次回は、会社が掲げる「地理的拡大」「診療体制強化」「グループ能力の収益化」「DX・データ活用」を見ながら、日本動物高度医療センターが今後も成長を続けられるのか、まだ分からないことも含めて整理していきます。

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