キャッシュ・コンバージョン・サイクル、いわゆるCCCという概念がある。
言葉としては知っていた。
計算式も一応は知っていた。
ただ、正直に言えば、「CCCがマイナスになる」という感覚、概念がいまいち理解できずにいた。
売上が立つ。
↓
利益が出る。
↓
現金が入る。
この流れは理解しているつもりだった。
「CCCマイナスってことは、運転資金もマイナスだから、
このサイクル回せば回すほど儲かる金のなる木じゃね!?」
なんて思っていたが、そんな単純な話じゃなかった、、、
CCCマイナスは、魔法のようにお金が湧いてくる仕組みではない。
ただし、企業のキャッシュの回り方を見る上で、かなり重要な補助線になる。
要約この感覚が腑に落ちたので、現時点での理解を整理しておく。
CCCとは、利益が現金に変わるまでの時間を見る指標
CCCは、ざっくり言えば、
仕入れや在庫にお金を使ってから、売上として現金を回収するのに何日かかるかを見る指標である。
製造業を例にすると、基本的には次のような流れになる。
原材料を仕入れる。
製品を作る。
在庫として保管する。
顧客に販売する。
売掛金を回収して、現金が入ってくる。
一方で、仕入れ先には後日代金を支払う。
この一連の流れの中で、会社のお金がどれくらい運転資金として拘束されるのかを見るのがCCCである。
一般的には、CCCは次のように分解して説明されることが多い。
CCC=棚卸資産回転日数+売上債権回転日数ー仕入債務回転日数
それぞれを噛み砕くと、こうなる。
棚卸資産回転日数:在庫がどれくらいの期間、会社の中に残っているか。
売上債権回転日数:売上が立ってから現金として回収されるまでにどれくらいかかるか。
仕入債務回転日数:仕入先への支払いをどれくらい待ってもらえているか。
つまりCCCは、
在庫として寝ている期間+売掛金として回収待ちになっている期間−仕入先への支払いを待ってもらえる期間
として理解できる。
もう少し直感的に言えば、売上を作るために使ったお金が、どれくらいの期間で現金として戻ってくるのかを見る指標である。
CCCマイナスとはどういうことか
では、CCCがマイナスというのはどういうことなのか。
簡単にいえば、仕入れ先にお金を支払う前に、顧客から現金を回収できている状態に近い。
例えばCCCが3日なら、1日あたり売上高の3日分が、運転資金として拘束されているということを意味する。
一方で、CCCがマイナス3日なら、1日あたり売上高の3日分について、会社が外部から資金を預かっているような状態に近い。
もちろん、本当に銀行から無利子で借りているわけではない。
ただ、仕入先への支払いよりも先に、顧客から現金を回収できるなら、会社は自分のお金をあまり寝かせずに事業を回すことができる。
ここがCCCマイナスの大きな意味だと思う。
分かりやすいのは、小売やスーパーのような商売だ。
スーパーは、仕入先から商品を仕入れる。
商品は店頭に並び、顧客が買えば、現金やカード決済で比較的早く代金が入ってくる。
一方で、仕入先への支払いは、その場ですぐに行うわけではなく、一定期間後にまとめて支払うことが多い。
つまり、商品が早く売れ、顧客からの代金回収も早く、仕入先への支払いは後にできるなら、会社は自分のお金をあまり寝かせずに商売を回せる。
場合によっては、仕入先に支払う前に、顧客から先に現金を回収できる。
これがCCCマイナスの感覚に近い。
言い換えると、会社が多額の運転資金を自前で用意しなくても、仕入先への支払いサイトと顧客からの回収タイミングのズレによって、商売を回せている状態である。
もちろん、これはお金が無限に湧いてくるという意味ではない。
ただ、同じ売上を作るために必要な運転資金が少なく済むため、資金効率が高くなりやすい。
「ほぼ無利子で借りている」とはどういう意味か
CCCがマイナスの場合、会社は顧客や仕入先から資金を提供してもらっているような状態になる。
ただし、これを「完全に無利子でお金を借りている」と言い切るのは少し雑だと思う。
仕入先への支払いを遅らせることができているとしても、その条件は仕入価格に反映されている可能性がある。
もし早く支払えば値引きしてもらえるような取引条件があるなら、支払いを遅らせることで、その値引き機会を失っているとも考えられる。
つまり、明示的な利息は払っていなくても、取引条件の中にコストが織り込まれている可能性はある。
また、仕入先に過度な負担をかけている場合、長期的には取引関係が悪化するリスクもある。
だから、CCCマイナスは「無料でお金が手に入る魔法」ではない。
より正確には、通常の借入よりかなり低コストで、事業資金を確保できている可能性がある状態と捉える方が自然だと思う。
ここを理解すると、CCCマイナスの見え方がかなり変わる。
成長企業だとCCCマイナスはかなり強い
CCCマイナスが特に効くのは成長企業だろう。
売上が伸びる企業は、普通であれば成長に伴って運転資金も増えやすい。
売上を増やすために在庫を増やす。
顧客への売掛金が増える。
設備投資も必要になる。
利益は出ていても、成長のために現金が先に出ていく企業は多い。
しかし、CCCがマイナスの企業では、売上が増えるほど、逆に顧客や仕入先から預かるような資金が増える場合がある。
たとえば、営業運転資金が次のように変化したとする。
去年:−100億円
今年:−130億円
変化:−30億円
この場合、営業運転資金のマイナス幅が30億円拡大している。
営業キャッシュフロー上は、この30億円はプラス要因になる。
なぜなら、顧客や仕入先から提供されている資金が30億円増えたような形になるからだ。
この資金は、成長投資に回すこともできる。
設備投資に使うこともできる。
場合によっては、株主還元に使う余地も生まれる。
つまり、CCCマイナスの成長企業は、売上成長に伴って資金繰りが苦しくなるどころか、成長するほどキャッシュの自由度が増す可能性がある。
これはかなり強い。
もちろん、どんな企業でもそうなるわけではない。
ただ、成長企業を見る時には、売上高や利益率だけでなく、その成長にどれくらい運転資金が必要なのかを見なければいけないのだと感じた。
横ばい企業でも、CCCマイナスには意味がある
では、成長していない横ばい企業では、CCCマイナスに意味がないのか。
そうではない。
たしかに、売上が横ばいであれば、営業運転資金のマイナス幅が毎年どんどん拡大するわけではない。
そのため、成長企業のように、営業キャッシュフローを継続的に大きく押し上げる効果は出にくい。
ただし、CCCマイナスには別の意味がある。
それは、同じ利益を出すために必要な投下資本が少なくなりやすいということだ。
ROICはざっくり言えば、
ROIC = NOPAT ÷ 投下資本
で表される。
そして投下資本は、大まかには固定資産と営業運転資本から構成される。
CCCがマイナスということは、営業運転資金がマイナスになりやすいということでもある。
そうなると、事業に必要な投下資本が小さくなりやすい。
その結果、同じ利益を出していてもROICは高くなりやすい。
つまり、横ばい企業であっても、CCCマイナスは「毎年どんどんお金が湧いてくる魔法」ではないが、資本効率の高さにはつながる。
ここはかなり重要だと思う。
CCCマイナスは、何もしなくても内部留保の増加率が上がり続ける仕組みではない。
ただ、事業を回すために必要な資金が少なく済む構造ではある。
その分、余剰キャッシュが残りやすくなり、経営の自由度も高まりやすい。
利益だけでなく、キャッシュを見る必要がある
決算短信や決算説明資料を見ると、どうしても売上高や営業利益の増減に目が行く。
売上が何%伸びた。
営業利益率が改善した。
純利益が増えた。
もちろん、それらは重要だ。
ただ、いくら利益が増えていても、現金が残りにくい会社はある。
在庫が積み上がっていたり、売掛金の回収が遅れていたり、成長のたびに運転資本が大きく必要になったりする会社では、利益とキャッシュにズレが出る。
逆に、CCCが短い会社やマイナスの会社は、利益が現金に変わるスピードが早かったり、成長しても運転資本をあまり必要としなかったりする可能性がある。
だから、企業を見る時には、PLだけでは足りない。
売上や利益だけでなく、BSとCFも見なければならない。
その会社の利益が、どれくらい現金として残る構造なのかを見る必要がある。
CCCは、そのための一つの補助線になる。
CCCだけでは判断できない
ただし、CCCがマイナスだからといって、必ず良い会社だとは限らない。
ここはかなり重要だと思う。
たとえば、仕入先への支払いを遅らせるほど、仕入債務回転日数は長くなり、CCCは短くなる。
しかし、その支払い条件と引き換えに、仕入価格が高くなっている可能性もある。
あるいは、仕入先に負担を押しつけているだけかもしれない。
その場合、CCCは改善しているように見えても、利益率や取引関係に別の歪みが出ている可能性がある。
また、在庫を極端に持たないことでCCCが短くなっている場合、欠品リスクを抱えている可能性もある。
一時的に売掛金や買掛金が変動しているだけのケースもある。
さらに、CCCの適正水準は業種によって大きく違う。
製造業、小売、食品卸、商社、飲食、建設業では、運転資本の構造がまったく異なる。
だから、CCCは単独で判断するものではない。
大事なのは、
なぜCCCが短いのか。
なぜCCCがマイナスなのか。
それはビジネスモデルによる構造的な強みなのか。
それとも、一時的な要因や取引先への負担によるものなのか。
ここを確認することだと思う。
過去5年間のCCC推移を見る意味
CCCは単年で見るだけでは不十分だと思う。
なぜなら、単年のCCCは、一時的な在庫の増減や売掛金・買掛金の変動に大きく影響されるからだ。
だから、過去5年間くらいの推移を見る必要がある。
CCCが年々短くなっているなら、在庫管理が改善しているのかもしれない。
売掛金の回収が早くなっているのかもしれない。
仕入先への支払い条件が有利になっているのかもしれない。
あるいは、ビジネスモデル自体がキャッシュを生みやすい方向に変化しているのかもしれない。
逆に、CCCが長くなっているなら、売上成長の裏で在庫が積み上がっている可能性がある。
売掛金の回収が遅れている可能性もある。
顧客への信用供与が増えているのかもしれない。
もちろん、CCCが悪化しているから即ダメというわけではない。
成長企業が将来の需要に備えて在庫を増やした結果、一時的にCCCが長くなることもある。
この場合、その在庫が将来の売上成長につながるなら、必ずしも悪いとは言えない。
大事なのは、CCCの変化を分解して見ることだ。
企業分析テンプレートに入れる問い
今回CCCを学んで、企業分析テンプレートには次の問いを入れたいと思った。
・この会社のCCCはどれくらいか。
→単年だけでなく、過去5年間の推移も確認する。
・同業他社と比べて、CCCは短いのか、長いのか。
→CCCは業種によって意味が大きく変わるので、セクター内での比較を欠かさない。
・CCCが短い理由は何か。
→棚卸資産回転日数、売上債権回転日数、仕入債務回転日数に分解して、在庫が少ないのか、売掛金の回収が早いのか、仕入債務の支払いが長いのかを確認する。
・そのCCCの低さは、一時的なものか、構造的なものか。
→一時的な運転資本のブレなのか。
それともビジネスモデルや取引先との力関係による持続的な強みなのか。
・売上成長に伴って、運転資本は増えるのか。
→成長するほど現金が必要になる会社なのか。
それとも、顧客や仕入先の資金を使いながら成長できる会社なのか。
CCCは、それ自体で企業価値を決める指標ではない。
ただ、その会社の利益がどれくらい早く現金に変わるのか、成長する時にどれくらい運転資本を必要とするのかを考えるうえで、かなり重要な補助線になる。
今回CCCマイナスという概念が腑に落ちたことで、企業を見る時に「利益が出ているか」だけではなく、その利益がどれくらい現金として残る構造なのかを見たいと思うようになった。



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